1904年~1905年に日本とロシアが戦った「日露戦争」の映画化だ。
1980年公開の東映作品で、激戦を極めた旅順攻防戦を描いたもの。
この戦役のおおまかな流れは、学生時代に司馬遼太郎氏の小説「坂の上の雲」で読んだこともあった。
たそれが昨年NHKで映像化されて好評価だったということもあって、大河ドラマとどう違うんだろうという興味もあって、今回見ることにした。
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二百三高地で繰り広げられる死闘
NHKのドラマがどちらかといえば、秋山兄弟の視点で描かれていたのに対し、映画のほうは児玉と乃木、そして徴兵された兵士たちの悲哀に満ちた生死の対比を描いているのが特徴的だろうか。
序盤から徴兵された一般市民を襲う、戦場での過酷な運命。リアルに描かれたそれに、徐々に感情移入していくのが自分でも分かった。
豆腐屋役の新沼謙次、教師役のあおい輝彦、名前は知らないが多分有名な俳優さんたち・・・
この映画には涙を誘うシーンに事欠かないと思うのだが、とくに染め職人役の兵隊が死んだときや、小隊長のあおい輝彦が、乃木将軍に涙を流しながら直言(戦場の現実を見ようとしない将軍に業を煮やして)したところはかなり感動してしまった。
「戦場で過酷な現実を強いられる我々に、乃木流の人道主義は理解できないのであります!」
なんだか文字にしたら軽い印象をうけてしまうが、実際の画面上でのあおい輝彦の迫真の演技は鬼気迫るものがあった。
目力というのだろうか。
戦地でのこの人は、最初から最後まで表情が半端なくリアルだったような気がする。
あおい輝彦演じる予備役少尉(だったか?)の婚約者の夏目雅子も素晴らしかった。
婚約者が戦死した後に教室で歌を歌うシーン。
子供達に涙を見せないために黒板に言葉を書くのだが、どうしてもロシアと書けずに教室を飛び出して戸外で号泣するシーンなどは、本当に涙が潤んだ。
銃後を守る女性にとっての願いは、戦争の勝ち負けなどではなく、愛する人が無事に帰ってくることだけなのだということが、このワンシーンで見事に表現されてたように思う。
プロの軍人である児玉や乃木はもちろん良かった。 児玉源太郎は丹波哲郎が演じていたが、僕的にはNHK大河の高橋英樹のほうが良いように思う。
大量の犠牲を出しつつも、それでも自分のやり方に固執せんとする乃木を説得するシーンで、
「お前の美学はどうでもええんじゃ!ワシゃ、旅順を戦い抜いたお前の名声と、第三軍の戦力が欲しいんじゃ!つべこべいわんと、黙って指揮権渡さんかい!」
などと怒鳴る丹波児玉が、NHK大河の言葉柔らかな児玉バージョンとは180度違った恫喝元帥ぶりに、いまいちリアルすぎて引いてしまったわけでありますね。
乃木将軍の苦悩と哀しみ
乃木将軍のために言い訳をすると、当時のロシアが旅順で守っていたのは世界屈指の防御力を誇る要塞で、このタイプの要塞を攻略するためには、防御力を何倍も上回る火力を集中し、なおかつ大量の兵士を動員して破らなければならなかった。
伝統的な強さを誇るロシア陸軍が構築した陣地は、クリミヤなど欧州の戦域でも西洋列強はこれを破るのはほぼ不可能だったといわれる。
なので、ここでそういった近代陣地戦の経験の乏しい日本が、ここを攻略するのに難儀するのは当たり前といえるわけで、戦後に西洋の軍関係者が「よくこれだけの要塞を驚くほど少ない犠牲で攻略した」と乃木を褒めたという。(児玉の海軍の砲を据えた機転が利いたともいえるが)
話を戻すと、乃木将軍(仲代達也)は息子二人を旅順の戦場で亡くすのだが、二人目の子息を失ったときに見せた仲代の演技は本当に鳥肌ものだった。
部下から報告をうけたときに見せた薄暗い表情。
奥の部屋に行き、震える手でライトを消して死んだ次男が最後に渡した勝ち栗を握り締める。極端に無口だった乃木がより自分の内面に入り込んだ瞬間。そして真っ暗な部屋で唯一光る目だけが、愛する息子を二人も失ってしまった親の悲しみを表していた・・・
乃木将軍の妻役である野際陽子もよかった。
長男をなくしたときに仏壇の前で拝む姿は悲しく、さびしげだったが、次男を亡くしたときにも同様の姿で仏壇の前で拝む彼女の表情は、もう精神崩壊の気配を見せていた。
悲しさのあまりで気が触れてしまう寸前だったのだろう。
史実の乃木夫人がそうだったのかは知らないが、これが演出だったとしても、実の息子を二人も失った母親の気持ちはこれ以外に表しようがないような気もするのだ。
最後に乃木将軍が明治天皇の御前で戦勝報告をするシーンである。
乃木将軍らしく漢文調の報告文を読み上げるうち、多くの兵を失わせてしまったこと、息子を二人とも失ってしまったことに思いを馳せていき、体を震わせ始めて最後には膝をついて号泣してしまった。
群臣が見守る中、明治天皇は静かに乃木のもとに歩いていき、その震える肩にそっと手を乗せた。それに気づいた乃木はさらに号泣してしまうのだった・・・・
どこまでが本当でどこまでが史実なのかは分からないが、乃木将軍が心から明治天皇を敬愛していたことだけは間違いないように思える。
乃木夫妻は明治天皇崩御の2ヵ月後に自決(自刃)したからだ。
児玉源太郎総参謀長も戦後に急死。
戦場での肉体の酷使、国家を命運を担った尋常でない心労がたたったのだろう。
ラストは復員した兵士のその後がエンディングテーマとともに流れていた。
それぞれが以前と変わらぬ生活を営んでいく。
平和で満ち足りた風景だった。
流れる歌もこれまた素晴らしい。
さだまさしの「防人の歌」。
この歌があったからこそ、ただ単に「勝った!よかった!」という勝利に酔う描写だけでなく、その背後にある悲しみというものを、情感の上で感じられたのではないだろうか。
まとめ
とにかく予想以上に素晴らしい映画だった。
最初はもっと戦勝のカタルシスとかあるのかなと思っていたのだが、思った以上に戦争の悲しさ、過酷さが心に迫ってきた。
なみな反戦映画よりよほど平和の大切さを考えさせてくれるような気がする。
普段は洋画大作しか見ない底の浅い人間なのだが、たまにこういう映画もいいなと思った次第である。