先週の映画の日に観に行った作品。
話題の「君の名は。」を見るつもりで行ったのだけど、すでに満席状態で「えっ!公開して半年以上経つのに、まだこんなに客入ってるのかよ!」と思い、そのまま帰ろうかなと思ったが(観に行きました⇒新海誠監督の「君の名は。」を観てきました!(Shinkai makoto's "Your Name"))、せっかく見に来たのだから何か知ってるのを・・と思い、選んだのがこの作品。
選んだ理由も、時折見かけるポスターで「えらい過激なタイトルだなー」と目を引いてたのと(だって「虐殺」ですよ!)、キャラクターがCG系のアニメぽかったので、たぶん攻殻機動隊とかエヴァンゲリオン的な雰囲気の映画だろうから、映像美を楽しもうという程度で、まったく前知識ゼロの状態で鑑賞に臨んだ。
チケットを買って係員に切ってもらった後、事前にトイレに入って小用を終わらせると、すでに暗くなっていた劇場に入って座席を探して着席。
久しぶりの映画鑑賞ということで、なんだか妙に嬉しい。
そしていよいよ始まった本編。その出来栄えは・・・
あらすじ
「アニメのくせにやたらとリアル。描写も世界設定も」というのが第一の感想。
以下に大方のあらすじをまとめておくので、ストーリーが分かっても良い方はそちらをご覧頂きたい。
映画は近未来の世界。
アメリカ軍の情報軍部隊を率いる主人公クラヴィスがサラエボでの作戦に従事しているところから始まる。
そこでは民族の浄化が行われており、戦争犯罪人として指導者を捕らえるために、部隊は派遣されていた。
メンバーは皆、最新式の武器・装備を身に着けており、感情すらも司令部によってコントロールされて、いかなる任務も無感情に遂行できるプロ中のプロの兵士に仕立て上げられていた。
しかし捕らえた指導者の言葉が、部隊員の一人の感情を乱れさせたため、主人公とその親友の兵士によって、その兵士と指導者は射殺されてしまう。
本国に帰還した主人公は親友の同僚とともに余暇を過ごすが、再び司令部により招集命令が下り、チェコに潜入することになる。
その作戦の要諦は、現在の発展途上国の騒乱(民族浄化や内乱)の中心いると思われるジョン・ポールという男を補足してほしいというものだった。
潜入捜査の結果、コンタクトした美人語学教師によって、彼女の過去とジョン・ポールとの関係が明らかにされた。
彼女がアメリカの大学に留学していたときに出会ったのがジョン・ポールで、そのときにジョンポールは言葉の研究をしていて、なぜか国防省の支援を受けていたというのだ。
二人が密会を重ねていたある日のこと、サラエボで核爆発があったとニュースが入り、そこにはジョンポールの妻子がいた。
このことがきっかけで二人の関係は終わりをつげ、ジョンポールはサラエボに帰ってしまう。
それ以来、会っていないという言葉を信じたクラヴィスだったが、やがてそれが嘘であることが分かる。
ジョン・ポールと結託した語学教師の手引きで、クラヴィスは捕らえてしまうのだ。
そこで初めてジョン・ポールと出会ったクラヴィスが聞いたのは「人間の脳には虐殺を好む器官が存在する。私の仕事はその器官を言葉によって刺激し、活性化させることにある」ということだった。
その後、駆けつけた部隊によって救出されるが、二人の姿は消えていた。
再びインドでの作戦に従事したクラヴィスらの部隊は、そこで虐殺を繰り返す武装勢力の指導部を急襲し、そこに同席していたジョン・ポールを捕らえることに成功した。
だがそこでも本国に帰還する輸送機が襲われてジョン・ポールらは再び奪還されてしまう。
奪還作戦を行ったのは、アメリカ民間軍事会社の兵士で、それを背後で操っていたのはアメリカ上院議員の一人だった・'・
中盤くらいまでのストーリーだ。
もちろん肝心なコアとなる部分は省いている。
それはこの映画の確信部分であり、なおかつ今の世界で起きていることの「からくり」の一つであるかもしれないものだ。
分割し、統治せよ
分割統治は古くは古代ローマの時代から応用されてきた異民族の統治方法の一つだ。
都市国家だったローマが支配下に置いた都市同士の連携を禁じ、都市ごとの待遇に格差をつけることで、分たちに向かう反乱を防いだといわれている。(私の好きな塩野七生さんの「ローマ人の物語」シリーズではローマ人はそんな悪辣に書かれれていなかったのだが・・)
はるかくだって19世紀のイギリスもこれをならい、インドを攻略した時に、自分たちよりはるかに巨大だったムガル帝国を地域ごとに支援することで全土の支配に成功し、支配後も人種、宗教、地域で差別をつけて互いに反目させ、長期間の統治に応用していた。
アフリカ諸国においてもヨーロッパの国々が同じ方法で分割統治を実施し、部族同士で反目させることで、宗主国たる自分たちにに反乱の機運をむけないように仕向けている。
戦後のアジアでも同じ形の分割統治が進行しているとも見えなくもない。
実際に数年前に敢行されたジョージ・フリードマン(影のCIAといわれた民間シンクタンク「ストラスフォー」の経営者)の著作「100年予測」でも、近未来のアジア地域では中国の衰退とともに再び必ず日本が台頭してくるので、そのときのために韓国を使ってけん制しなければならない、と米国にとっての朝鮮半島の戦略的利用価値を明言している。
これが本当はどうかは様々な文献や歴史の経緯を辿って確認する必要があるだろうが、少なくともこういう話題が好きな人たちにとって、この種のからくりはすでに明らかになっていると等しいと思うし、個人的には事実だとも思う。
話しを映画に戻すと、つまりは虐殺器官という作品で描かれた近未来の世界は、まさに今世界が進みつつある方向性を示唆していて、いずれは映画世界と同じことが起こりえる、いやすでに現在進行形で進みつつあるといっても過言ではないと思うのだ。
最後に向かうシーンの中でジョン・ポールは、
「私が人間の虐殺の本能を呼び起こす言葉を使って発展途上の国を混乱に陥れていたのは、サラエボのテロで犠牲になった妻子の復讐のためではない。先進諸国の平和と安定を守るため、貧しい地域からのテロの脅威を向かわせないために、発展途上国同士や国内で争わせる目的のために使ったのだ」
と独白した。(およその大意)
そしてそれを支援していたアメリカ上院議員もまた、アメリカという国をテロの脅威から守るためにジョン・ポールを背後から操っていたのだ。
この近未来の世界では、サラエボで起こった小型核爆発によって都市が消滅したが、それがゆえに先進諸国はより一層情報管理とテロ対策に乗り出すようになり、国民は厳重な情報セキュリティの元に置かれた。
結果、先進諸国内は比較的安定し、国民は安全で平和な生活を享受できるようになった。
一方で発展途上の国々ではテロや内乱、虐殺の嵐が横行し、混乱の極みになっていた。
その混乱の中心にいたのがジョン・ポールであり、そしてそれを背後から操っていたのが、上院議員(上院院内総務)というわけだ。
なんだかリアルすぎる設定じゃないだろうか?
まさにこの二極化こそが、一方の平和を守るためのシステムそのものであり、ローマ帝国以来の伝統的な『分割して統治せよ』の未来版なのであると思う。
これが少し前に触れた「からくり」の一つであり、古代から現代にまで続く、人間社会のシビアなまでのリアルな現実なのではないかとも。
ジョン・ポールの語った筋書きに「そんなのは間違っている!」と怒りを覚えたクラヴィスだったが、横でそれを聞いていた親友の兵士が「それでいいじゃないか!俺は守りたいんだよ、そんな世界を!アマゾンで物を買い、食べすぎていらなくなったダブルマックをゴミ箱に捨てる自由な生活を!」と反論するシーン。
この親友の兵士の言葉もまた真実だと思うし、おそらく自分も同じようなことを考えるだろう。
結局、人間は自分の身近な物事しか関心がないのだ。良くも悪くも。
この親友の言葉に対しクラヴィスがつぶやいた言葉が、すべての問題の根本を表していると思う。
「結局、人は自分が”見たい”と思うものしか見ないんだ」
まさにリアルな現実だ。
まとめ
上のレビューで書いた各登場人物のセリフやその時系列は、ひょっとしたら誤りの箇所があるかもしれない。
できるだけ他のレビューやウィキ掲載のオリジナル情報を見ないで、記憶を頼りに書こうと思ったので、もし記述に間違えがあれば申し訳ない。
なにせ映画を観ているときでも、インドでの作戦が失敗した時点からアフリカでのジョン・ポールの捕捉に移る展開も何の説明もなしにそのまま進んでいったので、あとで軽くウィキを観て「あれー!そういう話だったの!」と驚いてしまうくらいなのだから、どちらかというと原作を知ってる人のための作品という感もしなくはないな。
作品の最後は議会でクラヴィスが虐殺器官やそれにまつわる作戦の真実の証言をしていく流れで終わったが、これも実はクラヴィスの言葉にジョン・ポール仕込みの虐殺文法が含まれていて、アメリカ国内で内乱が起こる引き金になったというアフターストーリーがあるようだから、なんだかすごい大どんでん返しなのだ。
もしそうなのなら、クラヴィスはいったい何のためにそんなことをしたのかと?(愛する語学教師を失った復讐のためか?それともアメリカ国民に正義を教えるため?)
原作をまったく知らないまま映画を見たので、見た後も頭の中で「?????」が続いてしまってるけども、虐殺器官のタイトルの背景にある意味は十分に理解できたし、おそらく実際の国際社会で起こっていることへの警告的なメッセージがあるのだとは感じる。
これはすごい作品だな、と。
同時に相当、過激でもある。
なにせR15指定なのだ(15歳未満は鑑賞禁止)。
アニメとはいえ、人が殺される描写がバンバン出てくるし、ベッドシーンの描写もけっこう生々しく、少年兵が殺されるシーンなんか、顔の真ん中を銃弾が貫いて穴が開いてるシーンも血しぶきとともに描いてるから、これは見る人を選ぶこと間違いない。
しかも民間軍事会社を使った裏の作戦とかなんて、まさにイラクやアフガンで起きてたことのまんまで、これ放映して大丈夫なんか?と。
アメリカでは実写化が決まってるようだけど、このへんのリアルな流れは非常に微妙な扱いになるんじゃないだろうか。
いやでも大統領をこき下ろした映画でも普通に公開される国だから、普通にあり得るんだろうな。
実写版はぜひトム・クルーズあたりに主演して頂きたい。
ミッション・インポッシブルとマイノリティ・レポートを足して二で割ったような作風だから、まさにハマリ役だと思います。
最後に、この作品の原作(虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA))を書かれた伊藤計劃さんは、作品発表後の2009年に肺がんで亡くなられている。
映画を知るまでは全く未知の方だったが、内容を知ってしまった今、もしまだ生きておられたら、もっと衝撃的で警句に満ちた作品を世に送り出していただろうと想像し、惜しい人物を亡くしたと思った。
心からの哀悼の意を表します。
「虐殺器官」予告映像