劇場鑑賞レビュー。
岡田准一の時代劇殺陣が好きなので、楽しみにして観に行った。
結果は・・・
「美学に溢れている」
の一言。
映像美、人物美、伝統美、生き方の美・・・
あらゆるシーンで日本独特の「美」に満ちていて、久しぶりに良い映画を見たと思った。
ストーリーそのものは正直退屈だったが、最後に至る殺陣活劇は圧巻。
加えて女優陣の美しさにも見惚れてしまうほどだった。
そんな「美」に溢れた「散り椿」鑑賞レビューを紹介します。
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「散り椿」あらすじと感想
まずは簡単なあらすじをば。
冬の京都。
雪が舞う静かな町の一角で一人の武士が歩いていた。
ふと突然、動きを止め、立ち止まる。
そこに現れる数人の刺客。
武士に襲い掛かるも、たちまち切り伏せられ、武士は何事もなかったかのように立ち去った。
武士の名は瓜生新兵衛(岡田準一)。
妻である篠(麻生久美子)と京の外れで隠棲していた。
病気を患う篠は散り椿を眺めながら、故郷の散り椿がもう一度見たいと呟くがその願いは叶う事は無かった。
篠は亡くなる直前、自分が死んだあと夫に故郷に戻ってほしいと頼み、妻の言う通り新兵衛は故郷の扇野藩に戻る。
そこはまつて18年前、藩の不祥事を追及し、故郷を逐われた過去があった。
藩では、事件の巻き添えで亡くなった者もいたが、栄進した者もいた。
かつて新兵衛とともに四天王と呼ばれた武術の達人で、瓜生新兵衛(岡田準一)、榊原采女(西島秀俊)、坂下源之進(駿河太郎)、篠原三右衛門(緒方直人)のうち、新兵衛は藩を追われ、源之進は事件の責を追って切腹、篠原三右衛門は半ば隠居のような生活を、ただ一人、榊原采女だけが藩主の側用人として、権力の中枢で改革を行うため奮闘していた。
藩の実権を握っていた石田玄蕃(奥田瑛士)と采女は政敵で、新藩主の到着で藩改革を断行しようとする采女と、それを防ごうとする玄蕃との間での確執が深まる中、新兵衛の帰郷によって、抗争が巻き起こっていく。
まず何よりも登場する俳優陣の豪華さに目が行った。
先ほどのあらすじにも名前を書いておいたが、岡田準一を始め、西島秀俊、緒方直人、奥田瑛士、麻生久美子、黒木華、富司純子、池松壮亮などなど・・・若手、中堅、ベテランの豪華な俳優女優陣がスクリーンを華やかに飾っていた。
新兵衛(岡田準一)
その中でも圧倒的な存在感を放っていたのが、当然ながら主役の岡田準一だ。
彼はもともとV6というジャニーズのアイドル出身なのだが、いつのまにか本格派俳優として多くの映画に出演を果たしてきている。
とくに時代劇での活躍は素晴らしく、最近の「関ケ原」では石田三成を熱く演じていた。
私がこの俳優さんを知ったのは2014年のNHK大河ドラマ「黒田官兵衛」で、最初は単なるアイドルなのにとバカにしていたのだが、始まって数回ですっかりその魅力に取り込まれてしまっていた。
とにかくシリアスで重厚で熱い。
顔立ちそのものが時代劇に向いているのだろうか、目力があり、意志の強さとともに、熱く迸る正義感のようなものも感じることができる。
そして何よりもその武術の腕前。
インドネシアの武術カリ、ブルースリーが創始した格闘術ジークンドー、総合格闘技USA修斗などかなりのレベルに達しているようで、映画やドラマでもその身のこなしに素人離れしたものを感じることができる。
私もかつて武道をかじっていたことがあるので、こういう本格的な武術の動きをみるのが好きなのだ。
加えて歴史オタクであるところも自分と被っていてかなり親近感がわく(笑)
そんな岡田準一演じる新兵衛はとにかく寡黙で冷静、それでいて熱い正義感を身の内に溜めているところが、これまで見てきた岡田準一氏の歴史上のキャラとかぶるところがあって、実に違和感なく見ることができた。
というか、彼の演じる歴史上のキャラクター(黒田官兵衛、石田三成)はだいたいどれも同じ演技だという批判もあり、実際にそう感じてしまう。
何を演じても2014年の官兵衛に見えるし、今回の新兵衛もその延長線上だ。
しかしそれがまた「心地よいマンネリズム」という感じで、見ていてまったく居心地の悪さを感じさせないところがポイントだ。
良く言えば「三船敏郎」的なマンネリズムというべきだろうか?
采女(西島秀俊)
そんな新兵衛と対決し、最後はコンビを組む采女役の西島秀俊の抑えた演技も相変わらず素晴らしかった。
どちらかといえば熱さが前面に出る新兵衛に対して、采女は常に冷静沈着で政治家のそれにふさわしい。
清廉潔白に藩の改革を目指し、汚職にまみれた老練政治家である家老との対決も時代劇にはよくある構図だが、この俳優さんが演じると違和感なく見ることができた。
最後は矢に撃たれて倒れてしまうが、その直前に新兵衛を手で抑え、群がる敵を自ら倒していくシーンは、本当にクールだった。
血しぶきの演出が黒沢監督の「椿三十郎」のラストシーンのようで恰好良かったし、きっと監督もそのことを意識して描いたのだろう。
味方の共演者たち(篠原三右衛門、坂下源之進、篠、篠の妹)
四天王の1人である篠原三右衛門は緒方直人さんが演じていたが、常にスッと伸びた背筋の美しさ、明確に力強く吐く言葉はまさに武士そのものという感じで、最後の最後まで古き良き日本の伝統を体現していた感があった。
残る四天王の一人、坂下源之進は笑福亭鶴瓶の息子である駿河太郎が演じていたが、回想シーンで一度きりの出演にも関わらず、自ら潔く腹を切るシーンは鮮烈な印象を与えてくれた。
美しき女優陣の一人、黒木華さんはいま最も旬の女優さんだ。
NHKに民放に映画界に引っ張りだこの彼女が演じる坂下里美は、新兵衛の妻であった篠の妹。
新兵衛に秘かに思いを寄せつつ、帰郷した義兄の新兵衛を支える慎ましやかな姿は、相変わらず時代劇向きの佇まいをしていると思った。
ヒロインにふさわしい役柄だったにも関わらず、最後までそれほど目立っていなかった原因は、たぶんこの映画が剣豪作品に近いせいだろう。
そして最も美しさを放っていた新兵衛の妻、篠。
冒頭のシーンですぐに亡くなってしまうのだが、短い登場シーンにも関わらず、その印象は鮮烈すぎる。
最初の着物のシーン、回想シーンの髪の毛を洗うシーンなど「ハッ」となるほど美しかった。
女優さんのもつ美、撮影の妙による美。
ここでも「美」のために映画の全ては回っていたのだう。
そんな美しき姉妹と双璧を成す、作品の準ヒロイン、富司純子は采女の養母を演じており、いかにも武士の家に生まれた女性という凛とした厳しさと佇まいを体現していた。
厳しい半面、実はその心の底に弱さを抱えていたことが分かるのだが、それもまた人間らしさの表れかもしれない。
石田玄蕃(奥田瑛士)
そして采女の政敵である石田玄蕃。
藩の経済を立て直した功労者だが、その反面、御用商人による莫大な賄賂を受け取っていたことで、采女ら改革派からは攻撃の対象となっていた守旧派のリーダーでもある家老を演じるのは、奥田瑛士。
ベテラン俳優の域に入った人だが、この人の演じる嫌らしい役回りがなければ、新兵衛や采女らが光ることはなかっただろう。
最後は新兵衛に往復ビンタを食らわされた挙句に、一刀のもとに切り伏せられるのだから、最高の引き立て役に他ならないのだが・・・
光る脇役といえば、石橋蓮司がいる。
石田玄蕃らと組み、藩の特産物品の販売を独占する代わりに、玄蕃ら重役に賄賂を渡していた藩の御用聞き商人の役どころだ。
秘密を知りすぎたがゆえに命を狙われる羽目になるのだが、こういった一見情けない役でも名優レベルの人が演じると、画面に真実味が湧くから不思議だ。
最近では西郷どんの家に居候する武士の役を演じているが、どこか飄々として俗世間離れした雰囲気と小悪党的な弱さの両面を持つ、幅の広い演技力で今作でも新兵衛らの活躍をサポートしていた。
何気に「おおっ!」と思ったのは、新兵衛の義弟で若くして坂下家の当主となった坂下藤吾の役に若手の池松壮亮の唯一の殺陣シーン。
勘定方ゆえに剣術のほうはそれほどのように描かれていたが、後半に新兵衛から手ほどきを受けた剣術で、先輩であった宇野十蔵を見事に倒したシーン。
稽古の型どおりに剣を振っただけだったが、それが見事に十蔵の手首を叩き、勝負を決めたところは、まさに武術の醍醐味だなと感じた。
型の練習というのは、普段は無味乾燥で詰まらないように思えるが、そこには過去の経験が積み重なって出来上がった知恵が詰まっていて、それを体に叩き込むことで武術用の体を鍛えることができ、かつ実践の場では自然と敵を制圧しえる動きをマスターしている効果がある。
もちろん相手のレベルや状況によって変わってくるのだが、この作品ではそこを見事に表現してくれていて、武道を齧ったことの有るマニア的には「おおおお!」となってしまったのだ。
全体的には「剣豪のドラマ」ともいえる「散り椿」。
特に岡田準一の格好良さを引き出すことに焦点を置いているようにも感じられたが、風景や俳優の所作、表情、殺陣の演出の随所に「美」を感じることができて、個人的にはかなり満足な映画になっていたと思う。
NHK大河、朝ドラ出演俳優・女優の多さに驚愕!
この映画に出演している俳優・女優の多くが、過去・現在のNHK大河や連続ドラマ小説の出演していることに結構驚いてしまった。
以下に各出演者のNHK代表作をまとめてみたので、一緒に驚いて頂きたい。
岡田準一⇒黒田官兵衛(2014)
西島秀俊⇒八重の桜(2013)
黒木華⇒真田丸(2016)、西郷どん(2018)
池松壮亮⇒義経(2005)、風林火山(2007)
麻生久美子⇒新選組!(2004)
緒方直人⇒信長(1992)
新井浩文⇒真田丸(2016)
柳楽優弥⇒おんな城主 直虎(2017)
芳根京子⇒べっぴんさん(2016)
渡辺大⇒功名が辻(2006)
石橋蓮司⇒勝海舟(1974)、花神(1977)、独眼竜正宗(1987)、北条時宗(2001)、義経(2005)、風林火山(2007)、龍馬伝(2010)、西郷どん(2018)
富司純子⇒源義経(1966)、翔ぶが如く(1990)、琉球の風(1993)、北条時宗(2001)、天地人(2009)
奥田瑛士⇒徳川家康(1983)、独眼竜正宗(1987)、花の乱(1994)、北条時宗(2001)、八重の桜(2013)、花燃ゆ(2015)
(参照元:Wikipedia「散り椿」および各出演者の経歴より)
これ以外にも坂下源之進を演じた駿河太郎さんは、お父さんが笑福亭鶴瓶さんで「鶴瓶の家族に乾杯」や「西郷どん」にも出演している関係もあり、NHKとは縁がある。
奥田瑛二さんは、娘さんの安藤サクラが2018年10月からの朝ドラ「まんぷく」に主演しているし、夫の柄本佑さんの弟である柄本時雄さんも今作に坂下家の下男として出演しているという関係者つながりの凄さ。
こういうのを見ると、芸能界というのは本当に横のつながりが強いのだなと感じてしまう。
見ている身としては安定感は確かにあるが、もう少し「期待の新人」的な発掘をしてほしいなという気はする^^;
*ちなみに池松壮亮さんはトム・クルーズ、渡辺謙主演の「ラスト・サムライ」(2003)にも子役で出ている。この映画も2回劇場に観に行ったが、ハリウッド映画としては良心的にサムライが描かれていると感じた。この頃からあまり顔が変わっていない池松さんが素晴らしい。
まとめ
愛する女のために生きる武士の生きざまを描いた「散り椿」。
レビュー本編では書かなかったが、そうなのですよ。
この作品、実は「愛を描いた」映画でもあるのです(今さらかい!というツッコミはあえて甘受します^^;)
死してなお、亡き妻の想いを胸に生きる新兵衛と、かつて妻にと願った女が朋友とともに去り、そして死んでいった哀しさを持つ采女。
この二人が愛した女への想いを描いた美しい作品でもあり、武士の所作や生きざま、戦いぶりを描いた「侍の映画」でもある。
風景の美しさでは、冒頭に新兵衛が隠棲先から藩に戻る途中に渡った山間の小川が非常に印象的だった。
映画の題名にもなった「散り椿」は愛の確認の場でもあり、二人の男の戦いの場ということ。
とにかく映像と出演陣の所作の美しさが良かった作品。
地味だけど、すべての演出が”本物”を感じさせてくれた。
今の世の中には数少ない、ぜひともお勧めしたい日本映画の一つだと思う。