ようやく劇場鑑賞できた話題の映画。
今年の6月頃に単館上映で始まり、口コミであれよあれよという間に人気が高まって、今では全国の映画館でロングラン上映されている作品です。(2018年10月23日現在)
ゾンビ映画の撮影中に本当にゾンビが出てくるという「作中映画」だとは事前に聞いていましたが、低予算で作られた映画であること(300万円らしい)、出演俳優がほとんど無名だったので、いまいち食指が動かなかったのですが、あまりの評判の良さに重い腰を上げて観に行ったということで。
その結果・・・・
めちゃくちゃ面白かったですがな
という結論に至りました。
いや、これは評判通りです。
してやられました。
最初の40分ほど我慢すれば、あとの流れは一気呵成に「おおおおお!」となります。
しかも最後は感動するし!
ということで、思い切りネタバレになりますが、映画のレビューをしていこうと思います。(2回目を観に行きました^^)
「カメラを止めるな!」前半の感想レビュー
まずは簡単なあらすじをば。
ある廃墟で行われる惨劇。
ゾンビと化した若い男が目の前の女性に襲い掛かろうとする。
「やめて!私を思い出して!」
恋人同士だったのか、若い女性は斧を持ちながら、ゾンビと化した元恋人に抵抗する。
次の瞬間・・・
「カット!」
突然、画面の横から中年男が出現して、若い男女の動きを止めた。
「そんな演技でどうするんだよ!やる気あんのか!」
そう。
それはゾンビ映画の撮影中だったのである。
あまり上手くない演技にしびれを切らしたのか、監督は撮影の手を止めて執拗に女優の演技力の無さをなじり始める。
「お前の演技が下手なのは、お前の人生がウソで固められているからだよ!全部ウソばっかりの人生!!」
狂気じみた目で女優をなじり続ける監督と涙ぐむ女優を見て、さすがの共演俳優やスタッフも引き始めて、監督を止めに入るのだった。
空気を入れ替えるために休憩に入る一同。
そこで新たな恐怖が始まるのだった・・・
この後、なぜか一人のスタッフがゾンビに変身してしまい、次々と他のスタッフや出演俳優に襲い掛かります。(ゾンビになった理由は一応ありますが、そこはあまり重要でない笑)
その結果、皆がゾンビ化し、最後に残った主演女優がある行動に出て映画は終了します。
ここまでが40分ほどで、ここまで見ていて「これが噂のゾンビホラーだというのか・・・」と絶句。
いかにも学生映画風のヘタクソな内容で、映画の中の映画という設定もありがちながら、その後の俳優やスタッフとのやりとりも不自然かつグダグダ。
特に不自然に思ったのは、メイク役の背の大きな女性と、主演女優と俳優の3人のやり取り。
お互いに打ち解けていないのが丸わかりな演出で、メイク役の女性が無理やり同じ質問を投げかけたり、不自然な間が会話の途中で頻繁にあったりと、これは駄目だという気分になりました。
ただ面白かったのが、この女性がやたらと強くて、途中でゾンビどもを蹴飛ばして暴れまわっていたこと。
ハイキックや「うぉー!」と叫ぶパワフルさは「ウソ臭さ」が蔓延するこれまでの展開の中で唯一リアリティをもっていました。
最後は斧で頭を割られていましたが・・・
とはいえ、他のゾンビ役のグダグダ感は最悪でした。
カメラマンのおっさんのゾンビや若い音声スタッフのゾンビなど、いかにもゾンビしている動きや、ヘタクソな襲い方など、はっきりいって見ていて「腹が立ちます」。
ただ先ほどのメイク役の女優さん以上に、監督を演じている俳優さんは、この映画にかける真剣度を示すように狂気の様相を見事に演じきっていて、主演の女優が本当にゾンビに襲われて恐怖に怯えているときでも「それだよ!その表情が欲しかったんだよ!」とカメラを持って執拗に後を追い回したり、現場のスタッフの全員がゾンビ化したにも関わらず、映画の撮影を強行するクレイジーぶりが良かった。
基本的にはカメラワークも最悪だし、とにかく出演者同士の不自然な間にイライラさせられて、あー、やっぱりC級ホラー崩れの内輪向け映画だったんだ、どこのどいつがこんなク〇映画を勧めやがったんだ!と半ば怒りと諦めに似た感覚に襲われながら、ひたすらにあくびを連発していました。
実際に映画を見終わった後にネットのシネマレビューを見ていると「最初の40分で席を立って帰った人がいた」という話があって、この前半だけ見るなら「まあそうだろうな」と納得できます。
しかし
ここからが本番だったのです。
それまでのグダグダぶりは、実は壮大な伏線で、ワンカットワンカットの全てのシーンに意味があったのですよ。
まるで京極夏彦のデビュー作「姑獲鳥の夏」のように・・・
「カメラを止めるな!」後半の感想(ネタバレを含む)
ここからネタバレです。
未見の人は見ないようにしてくださいね。
確実に映画の良さが激減しますから。
では「あらすじ」交じりの感想レビューをどうぞ。
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ゾンビ映画が終了し、画面は「一か月前」のテロップが出ます。
ビルの屋上でドキュメントのワンシーンを撮影しているところで始まりました。
明らかに「やらせ」のお涙シーンを撮影している監督は、先ほどのゾンビ映画で狂気の監督を演じていた男性。
ゾンビ映画の監督は、バラエティの再現ドラマやカラオケの背景映像などを生業とする「早い」「安い」「質はそこそこ」をモットーとしている映像監督です。
そこに出てくるのが、いかにも業界にいそうなイケメンのプロデュ―サーで、新規に開設するゾンビ専門チャンネルの開局記念企画として、約30分のノーカット番組「ワン・カット・オブ・ザ・デッド」の撮影を映像監督に依頼するのでした。
このプロデューサー役の俳優さんが、イケメンながら実に適当な感じで、実際の現場でも適当な感じで指示を飛ばすところが、いかにも適当な企画の担当というやる気のなさが良い感じで出ていて、意外に味があってよかったですね。(ちなみにこの俳優さん、昔いた職場の上司にそっくりなので笑いました。態度もあんな感じで笑)
その結果、「妥協の鬼」監督は仕方なく引き受け、出演俳優や女優さんと打ち合わせに入ります。
しかし集まってくる出演者は一筋縄ではいかないものばかり・・・
アイドル崩れの主演女優は、汚いシーンなど「私はいいんですけど事務所が」を連発して拒否しまくり。
主演男優はこだわりが強すぎて監督の意見を真っ向から反対しまくり。
録音マン役の俳優は胃が弱いので飲み物に注文をつけまくりの面倒くさい奴。
カメラマン役の俳優は、映像監督の昔からの仕事仲間のアル中のおっさん俳優。
助監督役の俳優は気弱な青年。
リアルなカメラマンは重度の腰痛持ちで、その助手は「ダサい撮り方が格好いい」と主張して代わりに撮影したがる、油断も隙も無い女性。
メイク役の人妻女優は監督役の俳優と現場で親しくなって不倫関係になる・・
こんな感じで性格や状況に問題がありすぎて、気弱な映像監督は超キビしい環境の中で企画ドラマを撮影しなければならなくなったのでした。
そんな厳しい状況の中で、ようやく迎えた本番ですが、監督役の俳優とメイク役の女優が交通事故で当日のロケに参加できなくなるというアクシデントが発生。
そこで急きょ、映像監督がドラマの中の監督に、メイク役に映像監督の奥さんが演じることになったのでした。
この映像監督の奥さんというのが、冒頭の40分ゾンビドラマで、やたらとぎこちない演技を主演女優と俳優とで繰り広げていた人です。
前歴は実は元女優で、あまりにも役に入り込みすぎるので、業界を追放されたアブない経歴を持っていたという・・(プロレス映画のシーンで相手の指を本当にへし折ったらしい)
さらに父親と同じ監督志望で、父親とは真逆の妥協を許さない性格の大学生の娘も撮影についてきていて(主演俳優のファンだったため)、まさに現場はカオスです。
ここから先は、最初の映画の撮影シーンという形でネタバレになります。
主演女優の心にもない「私はいいんですが事務所が」発言&態度。
主演俳優の「そこは違うんじゃないですか?納得がいかないです」と監督に反対し続ける変なこだわり加減。
アル中おっさん俳優の酒癖の悪さ。
元女優である妻の役に入り込みすぎるアブない性格。
録音マン役の俳優の軟水以外の水を飲むとすぐに腹を下す胃弱さ。
腰痛が重いカメラマン。
そして父親と正反対の妥協を許さない職人気質の監督志望の娘の暴発など・・・
これらすべてがドラマの撮影中に発揮され、冒頭のグダグダシーンが作られていったのです。
これが本当に面白かった。
最初の40分に感じたグダグダシーンの一つ一つが、そういったそれぞれの出演者の個性を基に進展していったということ。
不自然だと思われた間の事実は、度重なるアクシデント(ゾンビを演じるはずのアル中のおっさん俳優が、現場で酒を飲みすぎて動けなくなったことなど)が原因で、ドラマのスタッフが出演者に向かって「間を持たせて」というカンペをカメラのこちら側で向けていたことで起きていたこと。
監督の狂気に満ちた冒頭に放ったセリフ「お前の演技が薄っぺらいのは、お前の人生がウソばっかりだからだよ」とか「お前は撮影の始めっから俺にたてついてばかりじゃねえか!」は、「映画上の演出」ではなく、リアルな気持ちで主演女優と俳優に向けた言葉だったこと。(これも笑った)
録音役のスキンヘッドの若者は、撮影前に間違えて硬水を飲んだので、ずっと腹が下り気味で、ついには撮影の真っ最中に〇んこをもらして泣くという阿鼻叫喚の図。
元女優の妻のメイク役としての不自然な演技は、長い間のキャリアの空白がなせることだったこと、暴れまわるシーンは役に入り込む性格が爆発したこと・・・
ほかにもたくさんあるのですが、これらが一番印象に残った「伏線」シーンでした。
個人的に一番笑ったのが、メイク役を演じた映像監督の奥さんの演技。
彼女の趣味がテレビで覚えた護身術で、「ポンッ!」という掛け声とともに、羽交い絞めをほどく技を撮影シーンでも連発していたのには爆笑しました。
そして最後の大団円へ
監督の娘も強烈で、母親の役に入り込みすぎる性格を受け継いだのか、映画の撮影現場でも熱が入ってくると「そこのおばさん!」「おっさん!」とかを連発して勝手に指示し始めるという困った性癖を展開します。
頼まれたから仕方なく撮影現場に連れてきたので、父親である映像監督は困った顔をしていますが(常にそうですが)、最後のシーンの撮影の直前で必要な機材が壊れたと知り、その困った性格が威力を発揮。
もうどうしようもないな・・という諦めモードが現場を支配し始めたときに、娘は「今何人いる?」と再び声を差し込んできて、事態は急変します。
ぶっつけ本番なのでカメラを止めることはできない緊張感の中、娘を含めた裏方スタッフが全員で撮影のクライマックスに向けて怒涛の動きを見せていき、最後は機材の代わりに全員で組体操の「ピラミッド」をして撮影を敢行。
このシーンでは、それまで「適当に撮影すればいいんじゃない」的な適当な態度をとりまくっていたイケメンプロデューサーも加わって、スタッフ一丸でエンディングを見事に成功させていました。
このシーンはすごく感動的で、泣かせるというよりも、爽快な気分になったというか、皆で力を合わせて物事を完成させる一体感というのが一気に表現できていましたね。
挿入されていた音楽もすごく爽やかで、まるで自分もあの現場にいて、出演者と一緒に作品を作り上げた達成感を得たような気にさせてくれました。
なるほど、この映画に多くの人が何度も足を運ぶ理由はここにあったんだな、と納得の大満足な内容でした。
まとめ
最初の40分は本当に大丈夫か?と不安に思いましたが、そこから先の展開で一気に目が開いた気分になりました。
全てのシーンに意味を持たせたプロットの秀逸さはもちろんのこと、映画撮影の大変さや面白さなども知ることができて、色々な意味で魅せられた作品ですね。
秘かに親子の関係修復みたいなものが最後のシーンで描かれていて、これも何気にジーンときました。
最初は冴えない映像監督の父親を「あいつ」呼ばわりしてバカにしていた娘が、いざ現場に来て見て、撮影が進むにつれて熱が入っていき、相次ぐハプニングのために「エンディングは変えましょう」と撮影進行の変更を勧めるプロデューサーに対し、「この作品は最後のシーンが命なんですよ!」と台本を投げつけて熱くなる姿.
その後すぐにハッと我に返って「すいません」と頭を下げ、プロデューサーに「そうなんですよ、作品よりも番組のほうが大事なんですよ」と諭されて謝り続ける父親の姿に
「本当は作品を思いのままに表現したいクリエーターとしての父親の本心」
に初めて気づきつつ、それを許さない「撮影現場のリアルな現実」を目の当たりにして、見る目が変わったこと・・・
そしてそれが最後に娘が発案した「スタッフ全員で行う組体操のピラミッドの頂上で、カメラを持った娘が父親に肩車されて女優を俯瞰で撮る」エンディング・シーンにつながり、実はそのアイデアが、昔子供の頃に父親にしてもらった肩車から発想を得たことを、一枚の写真で示したこと・・
このくだりは1回目に観に行ったときは、それほど響きませんでしたが、2回目の劇場鑑賞ではかなり胸にジーンときました^^;
単純なプロットだけなら「シックス・センス」的なクレバーさに感心しただけで終わったでしょうが、最後のシーンに至る流れで「映画に関わるものたちへの愛情」に満ちた感動を観客に与えてくれたことが、4か月以上続くロングランの理由になったのでは?と思います。
最後に強烈な印象を受けたのが、関西弁を話す女性プロデューサー役の女優さんで、実際にこの方はこのまんまのキャラクターらしく、この映画の前は裁判所の事務の仕事をされていたという変わった経歴の持ち主だそう。
基本的にこの映画は、上田慎一郎監督がシネマプロジェクトの企画で製作した作品らしく、出演した優さんや女優さんも、プロジェクトのために集めた方ばかりで(主演女優のみはゲスト出演)、出演者のキャラクターを見て今回の脚本を考えたそうです。
詳しい情報はネット上で多く出ているので、興味の有る方はググってみましょう。
色々と面白い裏話もありますよ。
ということで、ようやく鑑賞した「カメラを止めるな!」。
想像をはるかに超えた面白さで、劇中に声を出して何度も笑ったのは、この映画が初めてでした。
最後に至る達成感や爽快感はかなりのものがあるので、映画好きであれば、この作品は必見の一つになると思います。
何度も見返して声を上げて笑いましょう。そして泣きましょう。
鑑賞を止めるな!^^
www.youtube.comフランス版「キャメラを止めるな」情報!【2022年6月に追記】
フランスのアカデミー監督がなんと、この映画をリメイクしたということ!
今朝のNHKの情報番組「あさイチ」の映画特集のコーナーで紹介されて知ったのですが、映像を見てると面白そうで「これは観たいな」と思いました。
監督がプロデューサーに無理難題を押し付けられるところや、それを現場の俳優に伝えると逆切れされたりするシーンとか、日本版と似てるようで少しテイストが違うところが、また面白さを倍増させてました。
フランス版の「#カメラを止めるな」で「キャメラを止めるな」(タイトルの適当さ笑)オリジナルは劇場で2回見ましたが、すごく斬新で面白かったので、このリメイク版も観に行くつもりです。予告を見てる限りはすごく良さそうだ https://t.co/AFh6b1SKdq#キャメラを止めるな
— イジール@40代の洋楽・映画・英語好き (@izy170) June 24, 2022
笑えたのが、プロデューサー役の日本人女性が、本家カメラを止めるなでも出ていた、あの癖の強い関西弁の人。
フランス版でも日本語で話してて「変わってないなー」と笑ってしまいましたね~
ということで、これはぜひ見て欲しいと思いますし、私も公開したら観に行って、またこのブログでレビューを書くとしますね!