夏ということで、ホラーもののレビュー特集を勝手に組んでみたいと思います。
今日はその第一弾ということで。
1996年の中田秀夫監督作品。
後のヒット作「リング」や「呪怨」の先駆けとなるホラームービーの紹介です。
女優霊との出会い
私がこの作品を初めて見たのは、1997年ごろのこと。
翌日が休みだったので、その日はたまたま夜中まで起きていて、そろそろ寝ようかな~と思いながら、布団を敷いて横になってテレビをつけたら、この映画が始まっていました。
当時はまったく中田秀夫さんやら、この映画の事やらなんにも知らず、「あ~映画やってるなあ」と思いつつ、ぼうっと見てると、たけし軍団の柳ユーレイが出てきたので、「おっ、ユーレイじゃん。この人映画も出てるんだ」と思って、ちょっと興味をそそられたから、そのまま見続けたのです。
すると・・・・・
だんだん怖くなってきましたがな
途中から女優の後ろに女の姿がぼうっと見えたり、映画の撮影フィルムにその女がひそかに映っていたりと、これはかなりビビりましたとも、はい。
子供の頃から「あなたの知らない世界」や稲川淳二の怪談ものを見たり、青年期にはレンタルビデオで数多のホラービデオやショッキング!シリーズで脳内恐怖筋肉を鍛えられてきたので、そうそうは映像ごときでビビらない感性は持ち合わせてると思ったが、この映画の心霊写真的な怖さにはほとほとビビらされました。
何が怖いって、つねに背後に張り付いてるあのショット!
映画では前半にちょこっと、中盤から後半にかけてバンバンでてくる”あれ”ですけど、あれは本当にビビった。
だって夜中に一人で初めて見た映画ですよ!
当時はまだネットが普及してなかった時代ですし、ましてやyoutubeなんぞ存在すらしてなかったので、作り物動画の恐怖を未だ知らぬ乙女ならぬ乙男の初々しい感性が恐怖に震えて嗚呼!!
女優霊の怖さと真実
新人映画監督の村井俊男は自身のデビュー作を製作中、その作品のカメラテスト中に別の映像が紛れていることに気づく。村井はその不気味な映像に何故か見覚えがあるのであった。それ以降、撮影現場では奇妙な現象が起こり始める。
(女優霊 - Wikipediaより)
脚本を担当した高橋は、子供の頃にテレビで題名の分からないホラー映画の予告編を見た経験をモチーフとして本作に反映させている。この題名不詳の映画はかつてアメリカ合衆国で制作されたものの封印作品となり公開されず、後に日本で一度だけテレビ放送されたという映画作品『シェラ・デ・コブレの幽霊』であると言われている。
(女優霊 - Wikipediaより)
数年前に見たときはこんな情報は載っていなかったので(ように思う)、最近になって情報通の方が書き足してくださったのでしょう。ウィキおそるべし。
しかしこの「映り込む幽霊」ってのは、ほんとビジュアル的にインパクトがありましてな。
映画の中でも俳優さんの後ろに立ってたり、大口あけて笑ってたりして、不気味すぎるのなんのって・・・
よく怪談で「幽霊の顔は、目とか鼻がぼんやりしてて分かりにくいけど、それがなんとなくどういう顔をしてるのかは分かる」といいますが、この映画に出てくる幽霊はまさにそう。
撮影中にフィルムの中に後ろに突然入り込んできて爆笑してる「ぼんやり姿」はリアルに心霊フィルムを見ている気になりました。(怖すぎる)
映画の中で俳優さんが見ている昔の映画で、昔の女優さんが突然驚いた顔で何かを見て「あああああっ!」って恐怖に満ちた顔をしてる後ろに「ぼんやり」映り込んだ女の幽霊が「ギャハハハハハハハ」と口を開けて腹を抱えて笑ってる姿とか(フィルムを見てるだけなので音がないところがさらに怖さを増す)、作品の中で撮影しているときに女優さんが急に笑い出して、撮影スタッフが驚いて撮影を止めたときに、やっぱり後ろで女の幽霊が「ぎゃははははははは」って笑ってる姿が映ってたりとか、
とにかく笑うのが好きなんですな、おたくは
という感じで、ご苦労様です爆笑女王様というノリなんですがな。
それでもって最後は、主人公の監督(柳ユーレイ)を恐怖に陥れ、魔界に連れ去ってしまうのだから恐ろしい。
色々と怖い要素がふんだんに散りばめられた映画の中でも、特に印象深かったのは、根岸季衣さんの存在でしょうか。(下の写真はこの映画とは無関係のもの)
この人は作中の主演女優(白鳥靖代)の所属するプロダクションの女社長という役柄で、実際の出演シーンはほんの一度だけにも関わらず、その恐怖に満ちた表情で私の心をグググッと鷲掴みしてくれました。
映画の背景的には、根岸さん演じる女社長は権利問題か所属問題で主演女優と揉めていて(たぶん女優側は独立を目指している)、女優を抜擢した映画のプロデューサー(菊池隆則)も、女社長のアクの強さにほとほと難儀しているという設定。
女社長は、この主演女優の映画の出演に反対しており、幾度かの電話会話の末に、ついにキレて撮影中の現場に押しかけたときのシーンなんですよ。
撮影所の扉を開けて、プロデューサに押しとどめられながら「あなたね!」と女優に文句を言おうと近づいていった瞬間、
「!!!!」
といった驚愕の表情をして立ち止まったのですよ。
女社長はそのまま周りを見、次に天井、最後に女優の背後を見て、
「あっ、あんたたち、いったい、なんの映画を撮ってるの?!」
と恐怖に満ちた表情で女優を見つめてました。
その時の顔の怖さといったら、ああた!(このシーンが一番怖かったかもしれない)
そしてそのまま後ずさりしながら、ハンドバッグからお守りを女優に手渡して、
「これ、離さずに持ってるのよ!」
と言い残して、逃げるように立ち去っていったのです・・
このときの根岸さんの表情が良くて、本当に「恐怖」を目にした時の表情がよく出ていましたねえ。
映画の中でこれまで怪異は色々起こっていたのだけど、その怪異を引き起こす幽霊の存在に気付いているのは誰もおらず(監督と女優は目にしてはいるが、基本的には気のせいとして捉えている)、唯一その正体を目にして、それが幽霊だと認識したキャラクターが、この根岸さん演じる女社長というわけで。
女社長が恐怖する姿を見ることで、ようやく幽霊の存在が表に出てきたという印象を受けました。
また女社長がそういう存在を見る能力を持ち合わせていること、彼女がお守りを持っていて、それを女優に渡すという行為で、彼女が霊感体質であるということや、業界にはそういうことが実はよく起こるんだな、ということも映像で一瞬で理解できたという演出の妙でもありますねー。
そしてそういうことをひっくるめて、根岸さんの存在感がこの役柄にぴったりだったということなんですよ。
徹底的に女社長が一人何かを見ておののく姿というのだけを描写していて、見ているこちら側は「うわっ!なんかおるんか!何やろ?!」と想像力をたくましゅうして、ただ皆が彼女の狼狽ぶりを見つめるだけという、実に想像力を刺激する演出が素晴らしかった。
とにかく「怖い」の一言に尽きる
そんな感じで、他の凡百のホラームービーがあからさまに怖いものを描写しすぎて逆に怖さを失うのとは反対に、この映画は最後の方まで怖い存在をうっすらと、しかも背後で狂い笑いしているという意味不明な行動を見せることで、「えっ、ええっ?」的な恐怖を存分に与えてくれるんです。
ラスト付近で新人女優の女の子が天井から飛び墜ちて妙な骨の曲がり方で死んだ描写があったんですが、これも梅図かずおの恐怖漫画を一度でも見たことがあるならば、監督がこのシーンを梅図さんへのオマージュとして使ったんじゃないかなあと勝手に妄想する楽しみもあります。
こうして色々な怖さを踏んでいった挙句に、最後のあの賛否両論、一部非難轟々なリアル幽霊登場シーンに至るわけです。
そしてこれを見た当時、私は・・・、
おしっこをちびりそうになりました
あまりにも怖すぎて。
だって大笑いしながら、監督を引きずりこんでいくのですもん。
お歯黒で不気味な爆笑女王の顔で。
もうね、夜中の2時ごろにね、しかも前情報なしに、いきなりこの映画を一人で見てね、今までの流れと最後のあのシーンときたらね、ほんと心臓止まりますよ。なんかえらいもん見てもたな、と(涙)
本棚にしまってあった誰がいつ買ったか分からない心霊写真集を見て「うっひょー!」とページを開いたことを後悔しまくったような、あの感覚といったらいいか(余計分からんか)。
エンディングで行方不明となった監督の部屋に主演女優と映画スタッフが訪れるのですが、部屋のボードに貼ってあった主演女優の写真の目のところが潰されてたのと、女優が鏡のところに来たときに背後に女の幽霊が映り込んでいたのは、あの女優も監督と同じように魔界に引きずり込まれることを暗示しているのか?という疑問を残したまま終わるのも、それは見る人のご想像にお任せしますという態度で好感がめちゃもてます。
余韻を持たせる、想像にまかせる という、押しつけがましくない姿勢は、日本文化で一番好きなところなのです。
その後に出た「リング」や「呪怨」も見ましたが、この「女優霊」ほどにはインパクトを受けませんでしたっけ。
あとの二つはいかにも「怖い」感が満載だったですからねえ。
想像の余地がありませんて。
見た目インパクトありすぎて。
ちなみにこの映画はその後も何度かビデオやDVDを借りてみました。
二回目はまあまあ怖かったけど、3回目以降はさすがにそれほどでもなくなってましたね。
最後の女幽霊のシーンも、慣れればどうってことはないし、むしろそれまでの怖さを打ち消してる感はある(笑)
心霊写真が好きな人なら、この映画を見ると雰囲気はすごくありますよ。
未見の方は、ぜひぜひ一度ご視聴を。
-
-
背筋も凍る恐ろしさ!ホラー映画マイベストランキング10選!
続きを見る