見ようと思っていたが、なかなか見れなかった映画の一つ。
レビュー等での前評判も高く、ブラスバンドの映画そのものがありそうでないことも手伝って、かなり期待して見た。
ちょうどスターウォーズにハマってた時なので、オビワン役のユアン・マクレガーが出てる作品というのもあって、これはきっと爽やかな青春映画なんだろうと踏んでいたのだ。
しかし実際は、当時のイギリス社会を描いた社会派作品だった。
想像してた音楽系スポ根ものとはかなり色合いが違う。
もちろん基本は大会に出て優勝を狙う筋書きだが、背景に描かれている当時の英国の社会問題が絡まっていて、実はかなりのシリアスな社会派ドラマだ。
舞台はイギリスの田舎町。
町の主要産業である炭鉱で働く炭鉱夫たちは、長年続くブラスバンドの練習に余念が無い。
指揮者のダニーは14もの町が集まるコンテストで優勝を狙っている。
そんな唯一の楽しみである音楽とは裏腹に、炭鉱の閉鎖の話で町はもちきりになっていた。
そして会社が開いた選挙の結果・・・・炭鉱は閉鎖された。
収入を無くし、住む家を無くし、自尊心をなくした彼らに希望はないように見えた。
炭鉱労働者たちは生活を守るために必死に抗うが、世の大きな流れ(石炭エネルギーの衰退)には逆らえない。
希望を失くしながらも、様々な試練を経て音楽で一つになった仲間達は、夢の実現のために走り続けるのだった。
最後はお決まりの大団円を迎えるに見えたが、ここで大どんでん返しがあった。
指揮者のダニーが観客に強く叫ぶ。
「炭鉱の閉鎖により我々は職を失いました。職だけではなく、生きる希望さえもなくした者もいます。皆さんはアシカやアザラシのために声を上げますが、我々のためには見向きもしません。我々はただ普通の良き市民なのにです!」
実際はもっと長いセリフだったように思う。
ただ、このあたりだけ強烈に印象に残った。
結局は団員の一人の病気も治らず、失業状態のままでエンディングを迎える。
ハッピーエンドにはおよそ程遠い作品だったが、これがリアリティというやつだろう。
経営者側と労働者のせめぎあいというよりも、経営側の一方的な首切りは、20年前の英国だけではなくて、現在の日本でも切実な問題ともいうべきだ。
中には自殺未遂するシーンも出てきて、見ていて痛ましかった。
映画の時代設定は84年ごろというが、今の日本でも充分に通用する内容だろう。
いつの世も、庶民は歯を食いしばって生き抜くしかないのだ。
Brassed Off (1996) | Trailer | Film4